Quantcast
Channel: ハルくんの音楽日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 354

ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮ザグレブ・フィルのベートーヴェン 交響曲全集

$
0
0
Beethoven-553

ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮ザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団(1980-81年録音/Prominent Classics盤) 

我が国のオールド・ファンからは、今でも愛されているマタチッチですが、晩年に祖国のクロアチア(当時はユーゴスラヴィア)で行ったベートーヴェンのツィクルスのライヴが今年1月にCDリリースされました。遅ればせながら、その鑑賞記です。 

ザグレブ・フィルはヨーロッパでは決して上級レベルの楽団では有りませんが、下手ということはありません。逆に東欧の楽団特有の素朴な響きを持つのが魅力です。野人的?なマタチッチの芸風にはむしろぴったりです。

音源はクロアチア放送によるステレオ録音ですが、古めのアナログ録音のような音で年代にしては不満が残りますが、昔のライヴCDの鑑賞がお好きな方には問題は無いと思います。中低域の厚いリマスタリングも聴き心地が良いです。

いずれにせよ、マタチッチにはベートーヴェンの正規録音が少ないので、こうして比較的良い条件で全曲を聴くことが出来るのはとても貴重ですので歓迎しましょう。 

それでは主要な曲から感想を短く紹介します。 

「英雄」は中庸のテンポで、豪快というほどでは有りませんが生命力を感じます。管弦楽の洗練されない素朴な味わいが魅力です。 

「運命」は速くも無く遅くも無いテンポですが地に根付いたような安定感が有ります。男性的とも言える雄渾さがこの曲にはぴったりです。 

「田園」はオーケストラの素朴な音色や上手過ぎない木管楽器が田舎臭さを醸し出していて、のどかな味わいに心底惹き付けられます。“嵐”もこけおどしには成りません。 

第7番は思ったよりも重厚さが感じられませんが、現代の快速演奏と比べれば充分に重量感が有ります。終楽章は中々に高揚しますが、全体的には更に雄渾にやって欲しかったと思います。 

「第九」の1楽章は豪快さとずしりとした重み、かつ奔流のような勢いが有ります。2楽章には男性的な骨太さ、3楽章には表面的に陥らない崇高さが感じられます。終楽章は歓喜の主題が殊のほか速いテンポで豪快です。ソリスト、合唱団は自国演奏家で固めていて、熱く一生懸命なのは分かりますが、普段CDで聴く一流どころに比べると少々聴き劣りはします。 

残る、第1番、第2番は楽想の小ささを感じさせない堂々とした恰幅の良さが有ります。緩除楽章には心に沁み入る深い味わいが感じられます。 

第4番は重量感の有る豪快な演奏で、「3番と5番に挟まれた小曲」などという印象は完全に吹き飛びます。正に“野人“の本領発揮です。 

第8番もどっしりと手応えの有る演奏ですが、終楽章は荒れ狂います。マタチッチの個性が生きていて、カザルスの指揮に共通したところが有るようにふと思いました。 

ということで、ベートーヴェンの全集のファーストチョイスとして上げることは有りませんが、個性的な演奏を求めたい人にはお勧めしたいです。もちろん昔からのファンにも!


Viewing all articles
Browse latest Browse all 354

Trending Articles