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ブラームス 交響曲全集 カラヤンとセルを聴く ~古い奴だとお思いでしょうが~

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すっかり冬になりましたが、季節を秋に遡ってみたいと思います。

毎年深まる秋を感じると無性にブラームスの音楽が聴きたくなりますが、そういう方は多いと思います。哀愁漂う美しい旋律が心の奥底まで染み入ってくるからですね。

ブラームスはロマン派音楽全盛の時代に古典的様式を用いて作曲をしたので、先進的な音楽家からは『古い奴だ』と思われていました。けれども様式は古典的でも、音楽の内側はロマンチシズムが一杯に溢れていて、それがブラームスファンの心をぎゅっと掴むのですね。

今年の秋は中々ゆっくりとブラームスの音楽を聴くことが出来ませんでしたが、晩秋も過ぎたころから二つの交響曲全集をよく聴きいていました。それも以前なら、あまり聴く気が起きなかったカラヤンとセルによる全集です。どうも齢を重ねて嗜好の幅が広がったように思います。それは指揮者に限らず、作曲家、カテゴリーなど何についても言えてはいます。

実は生まれて初めて購入したブラームスの交響曲全集はカラヤンのLP盤のセットでした。高校生の時です。初めは大いに気に入り何度も聴きました。が、しだいに当時傾倒していったフルトヴェングラーのセットが欲しくなり、それを持っていた友達と交換したのです。録音は悪いものの大満足でした。

ところが、ある日クルト・ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデンの全集を聴いたところ、何か感覚的にストーンと落ちて『これこそがブラームスだ!』と思えたのです。それから45年という月日が流れましたが、幾ら新しい演奏を耳にしても、それ以上に感じられる演奏は決して有りません。

それでもブラームジアーナーとして幅広く聴きたい気持ちは起きてきます。ということで今年の秋はカラヤンとセルでした。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー(1977-78年録音/グラモフォン盤)
   
前述したとおり初めて購入した全集というのはカラヤンがベルリン・フィルと1960年代にグラモフォンに録音したものです。当時のアナログ(LP)盤で聴くと柔らかく目の詰まった響きがブラームスにふさわしく、とても良い音だと思っていました。ところがそれをCDで聴いたところ分離が悪く、薄っぺらい音にがっかりしました。恐らくはマスタリングの悪さでししょうが、これでは演奏以前の問題です。そこで次に購入したのが、この1970年代の全集盤です。こちらは中々に良い音に仕上がっています。

演奏はどの曲も速過ぎず遅過ぎず中庸のテンポで進みますが、ベルリン・フィルの音の厚みが演奏全体に重みと迫力を感じさせます。ただ、弦楽器などは余りに流麗に過ぎて聞こえますし、レガートを強く意識した演奏は耽美的と言えば聞こえはいいのですが、艶やかさが逆に厚化粧に感じられます。

多くの人が指摘するようにカラヤンの演奏に共通しているのは、外面的な美を追求するあまり、音楽の内面的な真実性が希薄になります。徹底的に磨き上げられた美音で演奏されるとベートーヴェンもチャイコフスキーも、このブラームスも何の曲を聴いても同じ印象を受けます。ベルリン・フィルは非常に上手いのですが、あの演奏から寂寥感や悲しみが感じられることはほとんど有りません。BGM的とも呼べるかもしれません。
更に気になるのがフォルテで管楽器を強奏させることで、明るい音で派手に鳴らすのが常套手段と化しています。第1番の終楽章、第2番の終楽章、4番の終楽章とことごとくこれみよがしな派手なフォルテシモが鳴り渡りますので、せっかくそれまでに厚い音で楽しませてくれていた心地良さもどこかに吹き飛んでしまいます。

音楽にブラームスを感じ取ることはありませんし、繰り返して聴くごとに段々と心は離れてしまい飽きが来やすくなる結果となりそうです。 

 

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ジョージ・セル指揮クリーブランド管(1964-67年録音/SONY盤) 

セル/クリーヴランドが全盛期の1960年代にCBSにより録音された全集です。セルのブラームスは基本のテンポを第1番から第4番までいずれもイン・テンポを保っていて、古典的な造形性をきっちりと守っているのが素晴らしいです。それでいて節目には”念押し”とまでは呼べなくとも、しっかりと重みを感じさせてくれ、いかにもブラームスらしいです。

テンポ設定も全般的に速過ぎることもなく、第4番あたりにはむしろゆったりとしてた情緒的な味わい深さが有ります。

音の切れの良さはいつもながらで、スパッとしたフレージングが日本刀か何かを思わせます。初めのうちはブラームスにしてはスッキリし過ぎているように感じられましたが、繰り返して聴くうちにそれが段々と快感を覚えるようになります。但しフレージングが余りに厳格なので、文字に例えれば”楷書体”あるいは”ワープロ文字”のように聞こえます。それはセルのCBS時代の大半のセッション録音に共通して言えることなのですが。

オブリガートが非常に明確で、スコアを見ながら勉強するには最適です。金管パートがそれぞれ非常に明確なのも特徴です。時にそれにわざとらしさを感じてしまうというのも正直なところです。

金管の響きはブラームスにしては明る過ぎます。他のアメリカの楽団のように、いかにもアメリカ的な底抜けの明るさでは無いですが、ドイツの楽団であれば全体のハーモニーから浮き上がらないような音型が浮き上がり過ぎてしまいます。むろんこれは好みの問題でしょうが、自分にはやはりドイツ流の全ての楽器が柔らかく溶け合った響きが好ましいです。

ということでこの秋は二つの全集を何度も聴きかえしましたが、決定的に異なる点は、繰り返して聴くたびに徐々に魅力が増してゆくセル盤と、それとは逆のカラヤン盤でした。あくまでも”私の場合は”ということですのでご了承願います。

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