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ゴールデンウイークの特別企画「ウイーン・フィルで聴こう!」は全くの尻切れトンボ。しかし、すっかり忘れてしまって、どこ吹く風の極楽トンボというわけではありません。
そこで、夏休み特別企画!(やっぱり極楽だぁ) 『ウイーン・フィルで聴こう!第3弾 ブルックナー交響曲「ロマンティック」』です。
ブルックナーの曲もまた、ウイーン・フィルに演奏をさせると、やはり絶品ですよね。初期の曲から晩年の曲まで一貫してブルックナーの音楽に最適な音の質を持ち合わせているからです。
もちろん、ウイーン・フィル以外のオーケストラのブルックナーが駄目かと言えば、決してそんなことは無く、たとえば「5番」や「8番」のように厳しく構築的な曲は、むしろドイツのオーケストラの方が向いているかもしれません。
ウイーン・フィルに最も向いていると思わせるのは曲想の流麗な「7番」と「4番」です。特に第4番「ロマンティック」は、「ウイーン・フィルで聴きたい!」と思わずにはいられないのですね。
それは、この曲がアルプスの雄大な山々や広々とした風景を連想させるからです。第1楽章の出だしから、山のかなたから聞こえてくるアルペンホルンの響きそのものですし、第3楽章の狩りのホルンも他のオケでは中々考えられません。
この曲は、元々ブルックナーの他の曲に比べて響きが余り厚く無く、その分、音の透明感が強いので、ウイーン・フィルの持つ澄んだ音にピッタリなのです。
ということで、ウイーン・フィルの演奏したCDを見渡してみますが、それが意外と多くはないのですね。カール・ベームのDECCA録音が定番中の定番と呼べますが、それ以外に優れた録音盤を探すとなると、今回上げたハイティンクとアバドぐらいです。
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ベルナルト・ハイティンク指揮ウイーン・フィル(1985年録音/フィリップス盤)
ベームの録音が1973年ですから、その13年後の録音と言うことに成ります。ハイティンクは必ずしも大好きな指揮者ではありませんが、この演奏はスケールも大きく、細部も手堅く処理されていますし、同じウイーン・フィルとの「8番」のような金管の過剰な強奏も見られません。欠点はおよそ見当たりません。しかし、「これは!」という魅力に乏しいのも事実です。「面白みのない優等生」という印象です。録音も優れていますが、ベームの優秀なアナログ録音よりも優位性が感じられるほどでは有りません。
ウイーン・フィルの「ロマンティック」として絶対に悪い演奏では無いのですが、個人的には特別にお勧めするほどではありません。
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クラウディオ・アバド指揮ウイーン・フィル(1990年録音/グラモフォン盤)
それにしても、この演奏はチャーミングです。アルプスの高原の爽やかな風が頬を撫で、暖かな陽光が一杯に感じられるような気持ちの良さや美しさに溢れています。細部の表情にはデリカシーがとても感じられて優しさの極みです。トゥッティの響きの綺麗さも特筆もので、「アルプスとは何と美しいところか!」と感嘆すること請け合いです。
ただし、それはあくまでもアルプスの一面です。巨峰マッターホルンやモンブランの威容、人間が簡単に近づけない自然の厳しさもまたアルプスの一面なのです。そのような厳しさはベームの演奏からはとても感じられますが、アバドの演奏には少々不足していると言わざるを得ません。
しかし、これはどちらかが全てと言うことでは無く、あくまでも登る人(聴き手)の好みですし、「険しい山は嫌だ、楽しく歩ける山が良い」という方にお勧めできるのはアバド盤です。ですので、出来ればベーム盤と両方を聴いてそれぞれの良さを楽しむべきです。
ということで、この曲ではベームとアバドの両ウイーン・フィル盤がお気に入りです。
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ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル(1964年録音/イタリア・メモリーズ盤)
しかし忘れてならないのは、巨人ハンス・クナッパーツブッシュがモノラル時代にDECCAに録音した演奏でした。モノラルながらも、こぼれるような歌と美感のちょっと類例を見ることの出来無い演奏でした。また、ライブでは1964年のクナのラストコンサート盤が有ります。ライブですので、気合の入り方はスタジオ録音の比ではありません。最近イタリアのメモリーズがブルックナーの主要な交響曲のクナのライブ演奏を揃えてCD6枚セットとして再リリースしましたが、以前所有していたゴールデンメロドラム盤の劣悪な音質と比べると音質が大幅に改善されています。個人的にはモノラル録音のブルックナーはほとんど聴きませんが、これだけ翳りが濃く、個性のあるブルックナーならば聴いてみようという気に成ります。フルトヴェングラーにもやはりウイーン・フィルを指揮したライブ盤が有りますが、感情的にのめり込み過ぎていてブルックナーを聴いた気がしません。その点、クナの演奏からはブルックナーの音楽を確かに感じ取ることが出来ます。
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