新国立劇場でオペラ「ザ・ラストクイーン」を観劇しました。新作オペラで、今日が世界初演でしたが、僕は昼夜二回公演の昼の公演を観たので、本当の世界初演に立ち会えたことになります。
このオペラについては先に紹介記事を書きました。
そして今日、公演を観ての感想は『感動的だった』の一言に尽きます。
日本の皇族として生まれて、昭和天皇のお妃候補とも噂された梨本宮方子(まさこ)は、日本の王公族となった旧大韓帝国の元皇太子・李垠(いうん/イ・ギン)と1920年(大正9年)に結婚します。政略結婚でありながらも、波乱の歴史の中で二人はお互いに尊敬し、愛し合い、日本と朝鮮の架け橋としての責務を果たしてゆきました。
戦後、夫の死後も韓国に留まり、障害を持つ子供達の支援の為に力を尽くし、民間人として日本と韓国の友好に一生をささげました。その激動の人生は何度もドラマや小説になりましたが、オペラ化は今回が初めてなのです。
李方子妃を演じるのは、在日韓国人二世のプリマドンナ・田月仙(チョン・ウォルソン)ですが、彼女は李方子妃の実像に迫るために自身で日韓で取材を続けてきて、近年発見された方子直筆の日記や手紙、写真などの資料を元に台本を練り上げたそうです。創作責任者として、このオペラにかける思いが並々ならぬものであることが分ります。
事実、このオペラのソリストは一人、李方子妃を演じるチョン・ウォルソンのみというモノ・オペラ形式を取ります。というのも台本は李方子の心の内を歌で表現することに100%費やされているからです。夫の皇太子さえもバレエダンサーが舞で演ずるという斬新さに驚かされました。ソリスト以外は4人の声楽家が場面場面の人物に扮してソロやコーラスとして歌います。
演出は秀逸で、当時の映像を効果的に背景に流し、そこにナレーションを加えることにより、物語の展開を非常に分かり易くしています。最小の小道具と光を使った舞台は必要かつ充分だったと思います。
音楽は西洋音楽に日韓のリズムを取り入れたオリジナル新作です。作・編曲者の孫 東勲は非常にセンスの良いアレンジを施して、ピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロ、打楽器の僅か5人のアンサンブルで見事に音楽表現をさせていました。ただし音楽に伝統的なアリアスタイルを期待すると失望するかもしれません。音楽に魅力的なメロディラインが登場するわけでは無いからです。
このオペラを創作してほぼ一人で1時間半の長丁場を途中休憩なしで歌い演じきったチョン・ウォルソンが圧巻でした。ラストには「たとえ声が枯れようとも」と絶唱を聞かせて、李方子妃が人生を全うして倒れる姿と重なり合い、本人の魂が乗り移ったのでは無いかと思えるほどでした。いや、確かに乗り移っていたと思います。
このオペラは日本寄りでも韓国寄りでも無く、事実を忠実に描いており、だからこそ感動させられ、日本と韓国の友好を心から願いたくなるのだと思います。